★けんさんから拳さんへ 2020.4.5

朝日新聞の夕刊には、三谷幸喜さんが定期的に「ありふれた生活」という一文を書いていらっしゃいます。回をかさねて987号、4月2日(木)の「ありふれた生活」は、3月29日(日)に新型コロナウイルスによる肺炎でお亡くなりになった志村けんさんへの追悼文でした。

「ありがとう、志村けん」というタイトルで書かれたその文章で、志村さんとの面会から、デビュー当時のこと、スターダムにのし上がってた志村さんの芸風の特徴など、三谷さんらしい視点で書かれています。興味のある方はご一読を!

その中で一つ、これは全く知らなかったことですが、三谷さんが志村さんに一度だけオファーをした話が載っていました。それがなんと、「古畑任三郎」のスペシャルで1999年に放映された「黒岩博士の恐怖」という番組だったということでした。そう、緒形拳さんが犯人役を演じたあの作品です。古畑任三郎シリーズのファンだった私は、当然、これも観ていています。

この犯人は監察医で、遺体に肛門におみくじを隠すという、考えてみればおかしな話です。この犯人役をはじめは志村けんさんにオファーしたとのことなんですね。三谷さんが言うには「殺した人間の肛門におみくじを隠すという、とんでもなく馬鹿馬鹿しい犯人は、完全に志村さんに当てて書いたもの」なんだそうです。

脚本家はだいたい主役や重要な役は、俳優に合わせて書いていくことが多く、これを「当て書き」というそうです。私、「黒岩博士の恐怖」を観たときとはまったく違和感を感じなくて、完全に緒形さんに当てて書いたものだと思っていました。でも、考えてみたら、確かに肛門におみくじを隠すなんて馬鹿馬鹿しくて…(笑)、志村さんに当てて書いたと言われたらなるほどそうか~と納得してしまいました。

三谷さんによれば、スケジュールの都合で実現しなかった志村さんの代わりに演じたのが緒形さんで、「およそ志村けんさん以外には想像出来ない犯人像を、緒形さんは見事に演じきって下さった」とも書かれています。緒形さんの黒岩博士は、すごく強面(こわもて)でぶっきらぼうでしたね。スルメをアルコールランプで焼くシーンなんかその象徴でした。これは逆に、こうした強面でやったからこそ、肛門におみくじといった本来ならば馬鹿馬鹿しい演出を迫真の「博士の恐怖」にできたんだろうなと思っています。

だからこそ、三谷さんがおっしゃるように、もし志村けんさんが演じたらどんなだったろうかと興味は尽きませんね(^_^)

けんさんから拳さんへ!奇妙な因縁ですね。いや、人生はおもしろい。

馬場弘臣

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