■丹那隧道 2020.9.10

新国劇の舞台「遠い一つの道」で頭角を現した緒形拳さん。新国劇時代における緒形さんのもうひとつの出世作に「丹那隧道」という作品があります。

作・演出は緒形さんを新国劇へ仲介した北條秀司。昭和9年(1934)に開通した東海道本線の丹那トンネル(熱海・函南間の隧道)完成に至るまでの難工事と工事に携わった人びとを描いた群像劇です。

昭和35年(1960)10月の新国劇公演で「丹那隧道」を上演するにあたり、北條は難工事に挑む主人公の工事技師・川西役に緒形さんを抜擢しました。

「丹那隧道」の主人公・川西役の緒形さん

抜擢された緒形さんは、台本を手にして、台詞を読み進めるうちに、難工事に再度、再々度挑戦していく川西の姿に感銘を受けた一方、演じることに対してプレッシャーを感じ、「(台本を)読んでいて身体中の震えが止まらなかった」といいます。

舞台稽古では北條秀司による熱の入った演技指導が夜を徹しておこなわれました。緒形さんも全身全霊で川西役に取り組み、本番では「川西技師が(自分に)憑依していた」と熱演していた様子を述懐しています。

こうした緒形さんの好演ぶりは、新聞紙上で賞賛されました。なかには「緒形拳の好演は、前回の「遠い一つの道」の大役をさらに上回るほどの出来ばえで、文句なし」と評する新聞社もありました。さらに、川西役の演技が認められて、文部省(当時)主催の昭和35年度第15回芸術祭奨励賞を受賞しました。

新国劇「丹那隧道」のパンフレット

後年、緒形さんは「丹那隧道」での演技を次のように回顧しています。「私の役者としての初心力、原動力、そして継続力、すべての根源がこゝにあります」

「丹那隧道」が緒形さんの役者としての才能を開花させたのでした。

らくはく修士

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