■緒形拳のテレビ界進出③~大河ドラマ「太閤記」への出演~

こんにちは、らくはく修士です。いろいろと忙しくて、またもや2か月ぶりの投稿となってしまいました。毎回お読みいただいる方には、なんともはや申し訳ない気持ちです<(_ _)>。

今回は緒形拳さんの名を一躍有名にした、NHK大河ドラマ「太閤記」についてお話ししましょう。

1960年代初頭から中頃にかけて、単発の作品ながら、テレビドラマで主演を務めるようになった緒形さんにとって、昭和40年(1965)は大きな転機を迎えた年でした。NHK大河ドラマ「太閤記」の放送が開始されたのです。この「太閤記」で、緒形さんは主人公豊臣秀吉役に抜擢されました。

当時の新聞記事によると、当初秀吉役には緒形さんではなく、中村錦之助(後の萬屋錦之介)、市川雷蔵、17代目中村勘三郎・5代目勘九郎(後の18代目勘三郎)父子、小沢昭一、歌手のアイ・ジョージ、ジュリー藤尾、当時俳優座の若手であった田中邦衛など、様々な芸能人が候補に挙がっていました。

そうしたなかで、NHK側は大物俳優が多数出演した前作の「赤穂浪士」(長谷川一夫主演)とは一線を画そうと、敢えてベテラン勢ではなく、「演技力のある新人」を起用しようと、緒形さんに白羽の矢を立てたのです。

NHKの担当者が秀吉独特の「サル顔」が似合う俳優を探し回っていたところ、演劇評論家・小説家の安藤鶴夫から「新国劇に緒形拳というサル顔の有望な若手がいる」と聞いたことをきっかけに、主人公の秀吉役を緒形さんに決めたそうです。

NHK大河ドラマ「太閤記」に出演する緒形さん

「太閤記」では緒形さんをはじめ若手俳優を多く起用した一方、オープニング場面で開業して間もない東海道新幹線ひかり号の走行シーンを挿入したり、ドラマの本編最後には古地図や写真を用いて、秀吉ゆかりの地を解説するなど、当時のテレビドラマとしては異色の演出が採られました。

こうした若手俳優の起用や斬新な演出が視聴者から大きな反響を呼び、最高視聴率39.7%・平均視聴率31.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を獲得しました。NHKには週に平均200通の投書が届き、緒形さんのもとにも幅広い世代からのファンレターが急増しました。

「太閤記」がヒットした昭和40年(1965)当時は、折しもテレビ界では「時代劇ブーム」さながらの様相を呈していました。この頃、テレビ局各局はテレビの普及で斜陽化に陥り、活路を模索していた映画会社などと共同で時代劇を量産し、多くのヒット番組を世に放っていました。「太閤記」ヒットの背景には、このようなテレビ界のブームと、ブームを担った多くの視聴者の存在もあったようです。

その一方で「太閤記」の登場は、テレビ界の「時代劇ブーム」を更に加速させました。当時の新聞記事をみると、「(「太閤記」が)常時三〇数%という高視聴率に刺激されて、民放には「宮本武蔵」「弁慶」(いずれも日本テレビ)などを頂点とする時代劇ラッシュが現出した」と「太閤記」のヒットにより、民放では時代劇の制作が急増したことがわかります。「太閤記」が時代劇ブームの一翼を担っていたのです。

NHK大河ドラマ「太閤記」ロケ中の緒形さん

また、大河ドラマ「太閤記」の人気と緒形さんの活躍は、新国劇に新たな客層を取り込みました。これまで新国劇の芝居を観たことがない女性客が、緒形さん見たさに劇場へ押しかけるようになったのです。

新国劇では緒形さんの人気を活用すべく、昭和40年12月に舞台版「太閤記」(於大阪新歌舞伎座)を上演しました。もちろん主人公の木下藤吉郎(豊臣秀吉)役は緒形さんです。舞台版は翌41年(1966)に再演されるほど人気があったことがうかがえます。

再演時の劇評によれば「緒形の藤吉郎はテレビでも成功だったので安心して見られ、彼独特のユーモアたっぷりの演技には好感がもてる」、「前作(初演)をむしろ上回る出来ばえ」と舞台版も好評だったことがわかります。

大阪城公園で舞台「太閤記」(初演)のPRをする緒形さん(右)、左は織田信長役の辰巳柳太郎

緒形さんの活躍は大河ドラマ「太閤記」終了以降も留まることなく、昭和41年には同じく大河ドラマの「源義経」で武蔵坊弁慶役に起用されました。併せてこの頃から、新国劇の様々な公演で主役をつとめるようになります。しかしその反面、かつてテレビで多く制作された新国劇劇団員総出演のユニット番組や新国劇の公演数は徐々に減少していきます。

ちなみに緒形さんは大河ドラマ「太閤記」以外に、同じく大河ドラマの「黄金の日日」(昭和53年)とスペシャルドラマ「徳川家康」(昭和63年、TBS)で秀吉を演じています。また舞台でも新国劇の公演以外に、若山富三郎主演舞台「石川五右衛門」(昭和55年)で秀吉役を務めています。豊臣秀吉は緒形さんの当たり役のひとつと言えるでしょう。

らくはく修士

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